活動報告

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イベント「2024 AIインサイトサミット」を開催しました

2024.12.11  written by 

2024年12月2日、三田キャンパスにて、OpenAI Japanの長崎社長をお迎えして「2024 インサイトサミット」を開催しました。

2024 AIインサイトサミットの様子

開会挨拶

はじめに、慶應義塾大学の伊藤公平塾長からご挨拶がありました。

開会挨拶を行う伊藤公平塾長

塾長は、11月20日にMicrosoftのCTOであるKevin  Scott氏を迎え開催されたイベント「リーダーと塾生との対話『AIが拓く未来』」について言及し、その中で印象的だった内容として「AIはエレベーターのように学問の山を登る助けとなる」という例えを紹介しました。

塾長は、ChatGPTをはじめとするAIの急速な進化により、かつては困難だった学問の山の頂上への到達が、今ではより手軽になったと述べました。一方で、こうしたAIを自身の目標や学びの対象となる「山」にどう適用するのか、またその方法を深く考えることが今後の課題であると指摘しました。

OpenAI Japan 長崎忠雄社長による基調講演

続いてイベントの基調講演として、OpenAI Japanの長崎忠雄社長にご登壇いただきました。

基調講演を行うOpenAI Japanの長崎社長

OpenAI Japanのビジョンと日本市場での役割

長崎社長は、まずOpenAIのビジョンについて言及し、「AIを誰もが利用できる環境を構築し、個人や企業がAIを活用して業務効率化や課題解決を進める社会の実現を目指す」という理念が、AIと通じて持続可能な未来を切り開く基盤になると述べました。

続いて、英語圏以外では初めて設立されたOpenAI Japanについて、これまで培ったグローバルな知見を活かしつつ、日本特有の社会課題に対応するAIソリューションの提供を目指していることを紹介しました。

OpenAIの研究開発体制と特徴

講演では、OpenAIが持つ二つの主要な研究開発チームについても解説されました。一つは、最先端のAIエンジン開発を担うリサーチチーム、もう一つは、一般ユーザーにとって使いやすいアプリケーションやツールを開発するアプライドチームです。この二つのチームが連携し、AIの技術革新と実用化を同時に進めていることがOpenAIの強みであると語られました。

また、2022年秋に登場したChatGPTについては、リサーチャーや開発者の枠を超え、個人や企業にAI活用を広げる転機となったとし、AIが専門知識を持たない人々にも利用可能なツールになったことで、新たなアイデアや課題解決の幅が広がったと評価しました。

AIの実用化と未来の展望

OpenAIでは、個人向けにはパーソナライズされた学びや業務効率化を支援する一方で、企業向けにはセキュリティ要件を満たしたカスタムGPTの構築を進めています。長崎社長は、大学向けエデュケーション版にも触れ、AIによる学び方の変革の可能性について展望を語りました。学生には個別化されたカリキュラムを提供し、教職員や研究者には業務効率化や研究の加速をサポートする道を切り開くと期待を示しました。

また、デンマークの視覚障害者向けアプリ「BeMyEyes」の事例や、製薬会社のモデルナがAIを活用して業務効率化を図っている取り組みを例に挙げ、AIが実社会の課題解決にどのように役立つかを具体的に紹介しました。

ChatGPTの進化と新モデル「o1」の可能性

最近ChatGPTに追加された検索機能や高度な音声機能について、デモンストレーションを交えて紹介されました。これらの新機能により、より自然な対話や効率的な情報収集が可能になり、AIがさらに日常に溶け込むことが期待されています。

さらに、新モデル「o1」については、論理的思考や試行錯誤する能力を持つ初めてのAIとして注目されており、数学や化学といった特定分野での問題解決に大きな可能性を秘めていると説明されました。このモデルが、人間では解けなかった問題を解決し、AI研究の新たなパラダイムシフトをもたらす可能性があると述べられました。

AIの普及と今後の展望

長崎社長によると、現在ChatGPTは毎週2億人以上に利用されており、今後さらに多くの人にとって身近な存在になると見込まれています。AIが日常生活に深く根付くことで、人々がより創造的かつ効率的に目標を達成できる時代が、すぐそこに訪れることが期待されます。

パネルディスカッション

基調講演に続き、パネルディスカッションが開催されました。パネリストとして登壇したのは、OpenAIの長崎社長、NECの吉崎副社長、住信SBIの松本会長、伊藤塾長の4名で、理工学部の訪問教授である椎名先生がファシリテーターを務めました。

パネルディスカッションの様子

パネルディスカッションでは、AIの可能性と課題、社会における活用方法について意見を交わすだけでなく、学生を含む参加者からの質問にも答え、教育や倫理観、規制といったテーマについても議論を深めました。

企業の取り組みとAIの進化

ディスカッションの始めに、各パネリストが自社の概要とAIに関する具体的な取り組みを紹介しました。

NECの吉崎副社長は、同社がインフラ領域で培った技術力を基盤に、南アフリカでの国民IDシステム構築や日本初のLLM(大規模言語モデル)など、AI分野で挑戦しているプロジェクトを紹介しました。今後は業務の効率化を超え、AIによる自律的な業務遂行が重要になると述べました。

住信SBIの松本会長は、AIを活用した住宅ローン審査の自動化により、少人数で効率的な運営を実現している事例を紹介し、AIを活用した新たなビジネスモデル構築の課題と可能性について語りました。

OpenAIの長崎社長は、リサーチとアプライドのチームが連携してAIの可能性を広げている現状を説明しました。AIが人々の創造性を引き出し、生産性向上に寄与することに期待を寄せました。

教育とAIの未来

AI教育の先駆者である伊藤塾長は、設立6年目を迎えたAI・高度プログラミングコンソーシアム(AIC)の取り組みを紹介しました。AICでは、AIについて一定の知識を有した学生が、学びたい学生に教える仕組みを取り入れており、また企業にスポンサーとなってもらうことで円滑な活動費を確保すると共に、企業が保有する実データを活用した実践的な学習を可能にしていると強調しました。

また、AIをツールとして活用し、個々の能力を高める重要性について言及する一方で、デジタルと人との対話のバランスを取る必要性も提唱しました。

AI倫理と規制

参加者からの質問を受けて、AIのリスク、倫理的な問題、および規制についても議論が深まりました。

OpenAIの長崎社長は、危険な情報を防ぐ「ジェイルブレイクテスト」などの徹底した検証を実施し、安全性の確保に取り組んでいることを紹介しました。長崎社長は、セキュリティを最優先にし、技術を段階的に公開することで社会がAIに慣れる環境を目指していると述べました。

一方、NECの吉崎副社長は、技術の進化が規制を超えて進んでいる現状を指摘し、技術者の倫理観の重要性を強調しました。また、AI時代における人権問題などについて、社会全体での議論が不可欠であり、文系学者を交えた多角的な議論が必要だと述べました。

伊藤塾長は、AIのサイバーアタックリスクに言及し、最も強いAIを作り上げる必要性を訴えました。

ネットワーキング会

さらに、イベント終了後にはネットワーキングイベントが開催され、学生と社会人の垣根を越えた活発な交流が行われました。

参加者はイベントの内容について議論を深め、新たな人的ネットワークを築くなど、充実した交流の場となりました。

乾杯の音頭を取る住信SBI 松本会長
ネットワーキング会の様子

(撮影:竹松明季)

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